スケール(音階)の練習はたくさんのみのりにつながります。
たった7音で構成されているスケールですが、この7音のならびは音楽空間の柱となっているものなので、これを自分ごととして体験し、吸収することは、音楽へのリアリティへといざなってくれます。

でも、スケール練習を、つまらない、難しい、苦痛だと感じている人が多いことも事実。
この記事では、改めてそのスケール練習の意義と、その実感を育み、自然にテクニックにもつながる取り組み方(レベルに関わらず)について書いていきたいと思います。
ここでは、ピアノでの練習について取り上げていますが、原理はどの楽器でも同じなので、ピアノ以外の楽器をされる方も是非読んでみてください。

スケール練習は音楽性を育む

さて、スケールとは「音階」のことですね。ドレミファソラシド、逆に読めばドシラソファミレド。
たった7音。この究極のシンプルさから音楽の豊かさが始まっているのだから、本当に不思議です。
そしてその、はじまりであるところのスケール。

私は大学時代に全調スケールの試験がありました。
その時は一定のテンポで、ミスタッチなく、均質に弾くことをよしとして練習に励んだものでした。
でも、実はスケールというのは均質なものではありません。それを感じることなく練習していたのだから、勿体無いことをしたなあと思っています。

ピアノで全調のスケールを練習すると全ての黒鍵にも触れていくのでテクニックの上達は当然期待でできます。でも、実感に落とし込みながらスケールに触れることは、それ以前に音楽性を養うことができるものなのです。

スケールは主音から始まる旅で、主音に向かう旅でもあります。世界で一番シンプルなメロディかもしれないですね。たった7音で辿る世界を理解と実感で体験しながら練習できたら、きっと毎日だって触れていたいと思えますよ。

スケールの理論と体感を一致させよう

音楽理論の復習

スケールのしょっぱな、まず、大事なのが主音。
これは楽曲が最終的に目指す音の位置でもあります。
約束ごととして、スケールを書いた楽譜では、一番最初で一番下に表していますね。
ハ長調だったら、ドが主音でそこから全全半全全全半と登っていくのが長調のスケール、まあだいたいここから始めるのが無難なところでしょう。

でも、ここで一つ目のつまづきが生まれます。
ピアノの場合、ハ長調はとてもお行儀よく白い鍵盤が並んでいるので、半音というのは意識されづらいのです。

なので、一旦ピアノの鍵盤から目を離してスケールを捉え直してみましょう。

スケール=階段というイメージから解放しよう

スケールをイメージするのに、隣の音へと一つずつ階段を登るように…と、よく説明されています。
そもそも日本語で「音階」っていうので、スケールを階段のようなイメージで覚えている人も多いと思います。でも、この刷り込みも体感にとっては、つまづきの元です。

スケールを実感として捉える時には、その実感はドやファといった音の定められた位置にあるのではなく、音から音への幅感にあるのです。
つまりドとレの”“が全音なのですね。
白鍵が隣り合ったミファとシドはそれぞれ半音です。
つまり全音は黒鍵も入れて数えた場合のいっこ飛ばしの鍵盤です。
この間の移動の感覚でスケールを捉えてみましょう。

ド全レ全ミ半ファ全ソ全ラ全シ半ド

これでは分かりにくいので、方眼紙に書いてみましょう。(下図)

まずは、ハ長調で。
大事なのは、音の位置ではなく、それぞれの幅にあります。差し当たって、半音は実感として受け止められなくても構いません。まずはこの感じをよく咀嚼して理解しておきましょう。

この音程関係が体で掴めたら、改めてピアノで弾いてみましょう。

音の幅感に意識を向けるために、普段の弾き方ではなく、右左の手で交互に弾いて見ると良いかもしれません。
上に登る方だけでなく、必ず、上のドから降りてくる方もやっておきましょう。

これで身についてくる音程の感覚は、相対音感的なものとなります。
相対音感の方が、絶対音感よりも音楽性が身に付く、と言われる所以は、この音幅に繊細に意識がいくようになるからだと思います。と言っても、完全に身につけなくても大丈夫です。

さらに、この方法に慣れてきたら、ドレミとか全半という名称も取っ払って音そのものに聞き入りながら、弾いてみましょう。

納得がいくまでこの練習ができたら、他の調もでやってみましょう。例えば、レを主音として始めてみるのはどうでしょう?

実感がついてきていれば、この時、体感は引き継がれるはずです。
すでにD durのポジションを覚え込んでいる人も、実感としてゆっくり音をたどってみてください。
この方法で大事なのは、正しい鍵盤の位置を覚え込むのではなく、音から音への移動を正確に辿ることです。黒鍵と白鍵を合わせて二つで全、すぐ隣が半ですので、体感も大事にしながら、半音にも意識的に関わっていきましょう。

レを主音としたスケールのポジション

この体感をもって、全調へと広げていきます。

短調は短調の並びがあるので、それを知識として情報を収集し、長調でやったのと同じように方眼紙に書き込み、実感に落とし込んでいくわけです。

「音楽プロセス体験」に基づいたスケール練習の方法

utena music field では、音楽を今ここで体験することを重視した「音楽プロセス体験」のセオリーに基づいた練習の方法を指導しています。そのレッスン中でのスケールの練習方法を下に書き出しておきますので、役に立ちそうであれば是非やってみてください。

でも、何をするにしてもまずは、上記のスケールの理解し体験しておくことが大事です。

子供にスケールの理論はいらないか

utena music field の音楽室では、一年生くらいからスケールの練習が始まります。
子供にこんな理屈はいらないんじゃないか、苦痛なんじゃないか、と思う人もいるかもしれませんが、理解することは子供にとっても嬉しいことだし、音楽と仲良くなるきっかけにもなるものです。

ただし、知識がその子の体験を追い越さないこと。

理解が実感とつながって進んでいくことが大事で、そこを見失わなければ、どんな子にとっても何かを得ることは大きな喜びです。だからスケールの理解が十分できる年齢になったら、弾けることだけを追いかけないで、きちんと理論もセットで教えるのです。

ついこの前のこと、生徒が手を怪我してきたので、ゆっくりとutena drawing をつかって音程をとるワークをしました。次の週も同じことをやっていると、もううれしそうに「ミとファはせまいんよね、やけん、黒鍵がないんよねえ、あと、シとドもね」と言って、一生懸命それを歌おうとしてくれました。音程感がなかなか掴めなかった生徒なのですが、徐々に音程感もついてきています。
これは大人にも効果があります。子供大人もまずは理解が知識一辺倒にならず、そのリアリティを掴んでいくことが大事やという捉え方、それが音楽プロセス体験です。わかることは楽しいものです。

スケール練習のテンポと何オクターブするか問題

上に書いたようなやり方で練習をするとしたら、いきなりそんな速くはできないはずです。

体感をつかみながらゆっくり。まずは一オクターブで上がって戻ってきましょう。

実感が湧いてきたら、正しい指使いも覚えましょう。
基本は白鍵に親指がきていること。黒鍵に親指を乗せてしまうと、動きづらくなります。

なので、この練習方法では、テンポを決めたりせずに、自分に合ったテンポを掴むことが大事です。

うまく流れるようになってからテンポを上げていきましょう。

最初は一オクターブで全調、できるようになってからハノンなどのテキストを使って練習してみてください。

ハノンのスケール練習は結構難しいので、こちらもおすすめです。
2オクターブからの練習曲になっていて、指使いも書いてあります。

余計な情報がなく、みやすいのもいいですね。

テクニックが先か理解が先か

ただ、テキストを使う場合、テキストに書かれているから、#にするとか、指使いにする、といったような方法をとると、自分の感じる力を置いてけぼりにしてしまいます。そうすると結局応用が効かない。

スケールをよく感じて、弾いてみて、運指のシステムとその心地よさを理解して、音域を広げ、両手で取り組んでみて、と丁寧に実感から構築していく方が良いでしょう。

その流れをよく感じながらメカニックも磨かれていく、という方向だと、スケール練習は俄然楽曲への取り組みの時にも威力を発揮してくれるようになります。譜読みが楽になってくるでしょう。

テクニックの上達は「自分がどうしたいか」がはっきりすることで育つもので、単に「正しく/速く」ということを考えるのは一旦やめてみましょう。

また、カデンツやアルペジオの練習もその先に(もちろん実感を育てながら)取り入れていくと良いでしょう。

utena music field の練習パターン(楽譜付き)

上の楽譜はutena music field でやっているスケール(音階という言い方は最初から使いません)
練習の方法です。毎日取り組む練習なので、美しいのがいい。これを綺麗に弾こうとやってみるのです。そしたら、スケール感だけではなく、拍感、拍子感、リズム感も育っていくようにできている練習方法になっています。utena music field ではこれに加えて、カデンツも低学年から始めます。

スケールと切っても切れないのが音程感覚です。
utena music field では、上の方眼紙をつかったutena drawing という方法で実感を確かめながら自分の音程感覚がどうであるのかを確かめることができます。人によっては、音幅が狭かったり広すぎたり、あるところだけスケールとずれていたり。それを指摘されて直すのではなく、自分で気づき自分で修正する、という方法です。

まとめ

スケールは小学生や初心者から深く音楽に携わる人まで、誰にとっても有用な練習です。

 スケールを美しく弾けるようになる事は、 音楽の空間を感じ取るベースが整ってくるということでもあるし、音楽の全体性を見通す力にもなってきます。また、運指やメカニックの基本的な要素も多く含んでいるので、練習すればするほどにいろんなものが磨かれてきます。その時に、均質に音がただ並んでいると感じるのではなく、それぞれの音の、音から音へのプロセスに耳を澄ませれば、そこにはメロディの萌芽もハーモニーの萌芽もすでに自分のなかに生み出していることに、年を経て気がついてくるでしょう。

  • スケールの音幅を意識し、その並びを覚え、体感まで落とし込む。
  • 演奏するときも今までのやり方にリバウンドしないように注意
  • スケールを感じて弾くことに慣れたら、音名や全半といった名前を心で唱えるのをやめて聞く。
  • 美しくつなげる。指使いに注意すると流れが良くなる
  • テクニックは理解と体験のあとに磨く

ここまでじっくりとできたら、スケールは苦痛なものではなく、自分に語りかけてくるようになるでしょう。

残念なことに、若い頃はそこを振り返ることなく、まず弾けることを要求されがちです。自分でもそこへ意義を求めがちです。そんな現役の人たちもすこし視点を変えて、一度ゆっくりとスケールを味わって見ると、案外、難しかった指の運びも滑らかになっているかもしれません。やってみてはいかがでしょうか?