2024.05.13 utena式楽曲解析

ブルグミュラー 素直な心 ソミレドの秘密

このブルグミュラーの「すなおな心」の
最初の音型(ソミレド)を
一つの形として体験的にくくり、
そこからの展開を”描きながら”解析、
演奏に繋げていこう、という試みです。


この記事は、ブルグミュラーに入ったばかりのピアノ学習者、それから、それを教える音楽教室の先生はもちろん、音楽を「描く」ことで自分の音楽を深めていくこの方法に興味のある人に読んでいただけると嬉しいし、読んで何某かお役に立てると良いなと思います。

今回紐解いていく楽曲について

ブルグミュラー作曲「25の練習曲」より、第1番「素直」
Burgmüller [25 Leihte Etüden Op.100] 1,La candeur
(タイトルの日本語訳、全音版では、「素直な心」音友社版では「素直」となっています。ブルグミュラーはドイツの音楽家ですが、タイトルはフランス語で、candeurの意味は「素直」の他、「率直」、とか「むすめごころ」。このcandeurという単語、web辞書には載っていないものもあり、一般的ではないのかもしれません。)

フランス語にしても、日本語にしてもすなおってなんぞや、と、ちょっとつまずくタイトルではありますが、ブルグミュラーさんから、すんなり出てきた曲、みたいなところかなあと(個人的に)思っています。

音型 ソミレドの形?動き?方向? 一つの単位として

「ソミレド」のまとまり

このソミレド、という音型、ファの音を抜いているのは、子供の手に合わせて(薬指はみんな動かすの苦手)いるのかもしれません。3度、2度、2度、の音程で下がっている形。

この4つの音のまとまりがこの曲の中で果たす役割は?
それを体験的に理解することを動線を描きながら試みていきます。

ソミレドの仲間を探してみる

さて、楽譜を開いて、この曲、すなおな心(素直)の中で、ソミレド、と、それに似た括りを探してみましょう。

imslpより


メロディの始めから早速、ソミレドは2回繰り返されています。そして、その次のドラソファもこの類と見ていいでしょう。そうやって探して行ってみます。これはどうなのかな?と思う音型も出てくると思いますが、自分が思うように探していけばいいのです。大事なのは、そういう視点で楽譜を眺めてみる、ということ。

そうすると、このソミレドの括りがこの曲の一つの単位となっていて、このちっちゃな単位は少し形を変えて繰り返されながら、メロディが繰り出されていることに気づくと思います。楽譜からそれがわかります。

それを今度は体験的にこの4つの音のまとまりをとらえていくことにします。その方法としてここではutena drawingを活用します。utena drawingは音楽のプロセスを体験する、utena music field独自の楽曲理解の方法です。

ソミレドを描いてみる

線を描く道具は、柔らかで滑らかに描けるもの、そして、濃淡がつけやすいクレヨンや色鉛筆を使用します。

さて、ということで この「ソミレド」を描いてみました。
音を点で捉えるのではなくて、線、あるいは動きとしてそのつながりや膨らみ、はやさ、濃さなどを
まずはいくつか線をあれこれ描いてみて、自分と音楽がフィットする形を探してみます。

例えば、下の二つの線、どちらがあなたの感じにしっくり来るでしょうか。
正解があるわけではないのです。
もっと別の動線がしっくり来るかもしれません。
線として、まとまりとして、堅苦しくなく捉えていく練習です。

よく音と、音の流れを心に感じながら、描きます。

この、小さな「ソミレド」が、さてこれからどう動いていくでしょう。

ソミレド二つで一括りの単位(拍節)

いろんな「ソミレド」があったことだと思いますが、
今回は、これがうまく転がっていけるように、こんなふうに動かしてみました。

下の写真は、ソミレドを2回繰り返した一小節の動きです。
1回目に比べて、2回目は少し小さく描く(感じる)ことで、また次へのエネルギーが湧いてくるようです。

1小節を呼吸として捉える

そうして、1小節を大小二つのまるで描き、それを一呼吸として、コロコロと転がして行ってみました。

繰り返しを、ループして描きます。

こうすることで、迷わなくなり、描くことにも聞くことにも専念ができます。

少しゆっくり目の演奏を入れてみたので、ぜひやってみてください。

描きながら、何が聞こえてきたでしょうか?何か感じることはあったでしょうか?
この形が必ずしも、誰にとっても心地よいとは限りません。
少しのタイミングや大きさ曲率などによっても、表情は変わります。

流れの良さと心地よさが重なってくると、演奏の流れにも影響してきます。

音楽プロセス体験がとらえる、ソミレドの秘密

音楽プロセス体験

音楽プロセス体験では、楽曲理論や解釈を「体験的に」捉えることで、音楽をもっと身近に感じたり、演奏につなげていったりします。

音楽は音と音の間にあり、人の体験もそこに宿る、という捉え方、そして楽譜の音符(音が鳴るところ)はその結果だという捉え方が音楽プロセス体験であり、そこで使われているutena drawingもまた同じように、音と音の間の出来事の解像度を上げていきます。そうしながら、このブルグミュラーの「すなおな心」も、よそよそしさを取り除いて、人肌に近い存在として感じられるといいなと思います。

ハーモニー・フレーズなどの要素を取り込んでいく

「素直」の曲の持ついろんな相(フェーズ)も取り込んでいく

ここまでしてきたことは、「ソミレド」のまとまりを一つのエネルギーと捉え、それを鼓動のように繰り返すことで、澱みのない音楽の流れを掴んでいく、ということでした。それは、この曲の、心拍のようなものかもしれません。タイトルに「秘密」とちょっと大袈裟な言葉を入れたのですが、その心拍の単位が最初の「ソミレド」だということ、それがこのピアノ曲と仲良くなる一つの秘密でした。

けれども、音楽というのは、流れがいいだけでは何か物足りません。

左手の和音の動きも見てみましょう。
そうするともう少し大きなまとまりが見えてきます。

さらに、もっと長い単位で捉えると、4小節や8小節を単位としたフレーズやメロディが見えてきます。

そしてそれらがどのようなふうに曲全体の中に配置されているのか・・

そんなことももう一度楽譜を眺め、捉え直す作業として描いて行ったのが、下の写真です。(実際のワークではこれらも丁寧に描き出し、手で描く動線と、視覚的なフィードバックによって心をよく動かし、この曲との親和を深めていきますが、ここでは紹介のみ)

2番かっこはつけたし?

この曲、案外曲者なのが、2番かっこ以降。シンプルにこの曲を「素直に」終わらせるなら、一番カッコまでを繰り返して終われば良いようなものですが、2番カッコからもまあまあ長い。音楽教室の先生たちの研究室では、子どもの気持ちが続かない、という声も上がっていました。確かに・・・

それに対する私の答えとしては、一番カッコからの繰り返しをまず繰り返しと思わないで、つまり、同じモーションで同じように捉えるのではなくて、特にミ♭が出てくるあたりから、「ソミレド」単位ではなく、1小節単位にゆったりと捉えてみました。それはドローイングで体験することができます。

後半の一番カッコで繰り返したあたりから、小さな、ソミレドの単位は捨てて、もう一つ大きな単位に乗り換えることで、この2番かっこが付け足し感ではなく、必然として曲の流れを支え、全体性へと繋がっていく気がします。

そう感じることができると、もう、2番カッコからをつけたし、のようには感じなくなりました。

オンラインコミュニティでもやってみました

utena music fieldでは、オンライン2024年6月の集まりで、このブルグミュラー作曲の「すなおな心」をやってみました。

その時の画像はこれ。

そしてこの記事はその時の模索をベースに書いています。でも、画像はずいぶん違いますね。
フレーズのとりとめのなさが、子供には向かないのではないか、という意見も出たりして、面白かったです。
体験と音楽との結びつきが大事なので、同じ形で同じものを追いかけるとは限らないのが、音楽プロセス体験です。この写真の時のワークショプ、それからこの記事で書いた動線の動画は、コミュニティ内に保管してあり、参加者は誰でもいつでも閲覧できるようになっています。

「すなおな心」のソミレドから始まる「誰もが音楽的に音楽を奏でる」捉え方

楽曲分析、と言われると、どうも堅苦しく、音楽を理解するどころか、バラバラにされて、息の根を止めてしまうのではないか(笑)と不安になったりもします。自分には遠いことのように思えて、触れない、という人もいるかもしれません。

でも、こんなふうに、動線で自分でクレヨンを持って動かしてみることで、うんと身近にその楽曲の仕組みが理解できるようになるものです。

この「すなおな心」は、ソミレドの音型が、コロコロと転がり出して、冒険に出かけるような楽しさがあります。そして、このように、小さな音型が、その楽曲の核になっている、ということは音楽の中ではよくあることなのです。このブルグミュラーの可愛い第一曲めを通して、それに触れることができたなら、いいですね。

utena.m.fのワークショップ

utena music fieldでは、「音楽を描く」という仕草を通して、音楽の生まれるプロセスを大切にし、より深い理解につなげたり、自分の音楽世界を広げたり、演奏に結びつけたりする方法を使います。これを音楽プロセス体験呼んでいます。

(音楽教室などで活用する場合はルールに従ってください。詳細はこちら

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