伊沢修二という人の名前だけは、大学で習っておぼえている。明治2年に音楽取調掛に任命されて、唱歌集などを作った人だ。けれど、この人がどれだけ西洋音楽を日本に導入しようと奔走したかを、この本で初めて知った。頃は明治、一方で森有礼はじめとした政治家たちの方針で軍事教育推進のために音楽が導入された時代である。

前田 絃二著、「明治の音楽教育とその背景」

音楽教育、という目線を主軸に、西洋音楽が日本に導入された経緯を追っている。どのような人がどのような環境下で、それをしたか、また、キリスト教の発展や、鹿鳴館の興亡など、世情の環境になども細やかによく調べられていて、また音楽教育、という同じ立ち位置にいる自分にとっては、思わず感情も動く内容でした。東京音楽学校の公演するはずだった歌劇「オルフェオ」が文部省の圧力によって、中止せざるを得なかった下りなどは、思わず怒りすら湧いてくる私です。

前に読みかじった本の影響で、西洋音楽は軍楽として、人の統制を図るために導入された、というイメージが強く、それも間違ってはいないのだが、一方で、西洋で学んだ伊沢修二や、西洋からやってきたルーサー・W・メーソンやエッケルトなどの音楽は、また別の脈を生んでいたのだ。宮内省雅楽部の日本の音楽家たちも自ら進んで、これを受け入れ、学び、推進に尽力した。元が音楽家集団だから、その精神の深さも音楽導入のよい力になったろうと思う。この人達が居てくれてほんとに良かった。

唱歌のそれぞれ生まれた時期や、「君が代」の意外な出生の秘密なども、とにかくページを開けるごとに、いろんな謎が溶けて、それもおもしろかった。世界中からセレクトして唱歌として子どもたちに伝えようとした、伊沢修二のはたらき。そして、蛍の光、ちょうちょう、埴生の宿といった今や日本の懐かしいうたとなっている、それら。これまで以上に愛おしくなる。

そしてこの著者の視野の広さと深さ。 学者ではなくて、一般の音楽指導者、というのも驚く。いや、音楽指導者だからこその目線と必然性が、ほの著作にはあると思う。私も同じ音楽を人に伝える仕事をする人間として、なにを受け取るべきだろう、と考えたもの。なにか、圧倒されるものがあったんだね。

とけみはそだちど

明治の音楽教育とその背景
明治の音楽教育とその背景

 

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というわけで、おし!これから1年で100こ書評書く!

「音楽と体験」、というテーマを持って、それも主に体験、という方に重きをおきながら。

およそ音楽教室とは思えない品揃えの本棚から、私自身もう一度「音楽プロセス体験」を立ち上げた経緯を辿ってみよう。